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福岡地方裁判所 昭和25年(行)3号 判決

原告 渡辺文巍

被告 川崎村農地委員会・福岡県農地委員会

一、主  文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告川崎村農地委員会(以下単に村農地委員会と称する)が別紙目録記載の土地について昭和二十三年八月二日定めた農地買収計画はこれを取消す。被告福岡県農地委員会(以下単に県農地委員会と称する)が原告の訴願に対し昭和二十三年十月二十七日なした訴願棄却の裁決はこれを取消す、訴訟費用は被告等の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として、請求の趣旨記載の本件土地は原告の所有で原告が昭和十三年六月頃教職就任や応召等のため他の二筆の土地と共に一時訴外亡井手正人に賃貸耕作させていたものであるが原告がその後昭和二十年十月二十日復員するに及び前記約旨に従ひ翌二十一年六月任意にその返還を受け爾来平穏に耕作している原告の自作地であるところ、村農地委員会は昭和二十二年八月頃右土地全部に就き遡及買収計画(以下第一次農地買収計画と称する)を定めるに至つたので原告から右土地は原告が当事者双方合意の上適法且円満裡に明渡を受け爾来自作している土地であるからその遡及買収は失当であるというので被告村農地委員会に対し異議を申立てた結果、村農地委員会においてもこの異議を容れ、右買収計画中本件茶畑の部分の取消を為したので右茶畑は原告の保有する自作農地として確定するに至つた。然るに被告村農地委員会は昭和二十二年法律第二百四十一号を以て自作農創設特別措置法が改正せられ第六条の二等が追加されて遡及買収の規定が強化されるや、右改正規定に基づき昭和二十三年八月二日再び本件茶畑を不在地主の所有する小作地なりとしてこれに就き更に遡及買収計画(以下第二次農地買収計画と称する)を樹立した。それで原告から再度同被告に対し適法に異議の申立をなしたところ意外にもこれを棄却されたので、更に同年九月六日県農地委員会に訴願を提起したけれども、これ又同年十月二十七日附棄却の裁決が為され、該裁決書は翌二十四年十二月十四日原告に送達された。然しながら本件の遡及買収計画は次の理由により違法たるを免れないものである。すなわち、(一)本件茶畑は原告の住所の在る上妻村の隣村川崎村柳島にあるけれども、原告住所より僅か徒歩約十五分の近距離にあるのであるから原告を不在地主として取扱うのは妥当でない。又(二)前記の如く本件土地は一時井手正人に賃貸耕作させていたものであるからいわゆる小作地として買収するのは失当である。

又これに加えるに(三)前記の如く本件土地は原告がその一時の小作人との合意により適法且円満裡に返還を受け爾来自作しているものであるからこれに就き遡及買収計画を定めるのは信義に反するものである。然のみならず前記第一次農地買収計画は昭和二十一年法律第四十三号附則第二項によつて定められたもので、これは前記改正法附則第二条によつて同法第六条の二による農地買収計画と看做されるものであり、而して第一次農地買収計画のうち本件茶畑の部分は有効に取消されたものであるから右取消も亦当然改正法上の効力を有し被告等はこれに拘束され再び同一の理由に基づき農地買収計画を定めることは法の許さないものと解すべきであるに拘らず敢て改正法第六条の二の規定を適用し、第二次農地買収計画を定めたことは明かに違法たるを免れないというべきである。従つて斯る違法な計画を認容した県農地委員会の裁決も亦違法にして取消さるべきものである。よつて第二次農地買収計画並びに右裁決の各取消を求めるため本訴請求に及ぶと述べた。(立証省略)

被告等代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告の本訴請求原因事実中、本件土地が原告の教職就任や応召の為一時井手正人に賃貸小作させられたという点、及び本件土地の引上げが当事者合意の上適法且円満裡に為されたという点並びに被告村農地委員会が第一次農地買収計画を取消した事情乃至第二次農地買収計画を定めるに至つた事情の点はいずれもこれを否認しその余の事実はこれを争わない。而して(一)本件茶畑は原告の認める如くその住所の在る上妻村の隣村川崎村柳島地内に在るところ、右柳島地区については右上妻村との関係において自作農創設特別措置法第三条第一項第一号所定の指定は行はれていないから、本件茶畑について原告が在村地主であるということはできない。又(二)原告が本件茶畑を前記井手正人に賃貸したのは昭和十二年六月のことであり然もその当時には未だ原告において応召の事実はない(原告の応召は数年後のことである)のであるからこれを以て直に本件土地が一時井手正人の小作に委ねられたものと認めることはできない。更に(三)昭和二十一年六月頃本件土地の小作人が、これを原告に返還したのは原告の強要によつて為された不当な土地引上げに基くものであり然も村農地委員会の承認を得ないで行われたものであるから遡及買収から除外される農地と認めることもできない。

次に原告は前記第一次農地買収計画に対する異議申立によつて既に取消された本件土地に就き更に第二次農地買収計画を定めることは違法である旨主張する。然しながら第二次買収計画は以下に述べる理由により適法に定められたものである。すなわち第一次農地買収計画に対し原告より異議の申立がなされた当時、村農地委員会としては法律上は右計画に違法の廉はないと認めたけれども原告と前記小作人とは、縁辺に当る関係でもあり且つ兎角本件茶畑等を繞つて紛争が絶えなかつたので、両者の円満な解決を計るという目的から地元農地委員をして斡旋に努めさせた結果、両者の間に、第一次農地買収計画の対象となつた農地の内、本件二筆の茶畑だけは原告の保有とし、その余の二筆の茶畑のみを買収しこれを原告から小作人である井手の方に昭和二十三年六月に引渡すということになり、同時に原告の保有する他の茶畑で出来た茶の葉は全部これを井手方に売渡すという旨協定の成立をみるに至つたので村農地委員会としても右協定の趣旨を尊重し前記異議の申立を一部容認して第一次農地買収計画中本件茶畑の部分はこれを取消すことにした訳である。然るに原告は日ならずして右協定に違反し、井手方に対する茶の葉の売渡をしないのみでなく、不当にも前記茶畑に育生する茶樹を台刈し、櫨、柿等を切払うの暴挙を敢えてしたので再び紛争を起すに至つたから村農地委員会としても右の如き事態に徴し前記取消の効果を将来に向つて維持すべきでないと認め井手の遡及買収の申請に基づき新めて第二次農地買収計画を定めたのである。これを要するに前記第一次農地買収計画の一部取消は前記協定が有効に存在し且つ誠実に履行されることを前提としてなされたものであるところ、日ならずしてこの協定を蹂躙する原告の前記行為がある以上は只に右取消の唯一の合理的根拠はその所を失うに至つたばかりでなく、もはや右取消の効力を将来に向つて維持する何等の理由も存しないのである。よつて第二次買収計画には豪も違法の廉はない、と述べた。(立証省略)

三、理  由

原告は本件茶畑が不在地主の所有する小作地には該当しないと主張するのでその当否につき順次考えるに、(一)右茶畑が原告の居住する上妻村の隣村川崎村柳島(但し柳島とは大字塚瀬の別名である)地内に在ることは原告の自認するところであり、証人松延豊吉の供述に依れば右柳島が上妻村との関係において自作農創設特別措置法第三条第一項第一号所定の指定が行われていないことが認められるので仮令右茶畑が原告住所より近距離にあるとしても右指定がない以上本件土地に就き原告を在村地主と認めることはできない。(二)成立に争なき乙第一、二号証、成立を是認すべき同第三号証の一の記載に証人秋山武雄、井手ミサヲの各供述を綜合すると本件土地は昭和十二年六月頃当時農学校の教職にあつた原告が鹿児島県に転任することになつた際その縁辺に当る訴外亡井手正人に他の二筆の茶畑と共に賃料一ケ年金七十円、期間五ケ年の定めで賃貸したがその後賃料も増額し期間をも更新し、右訴外人において製茶機等を備付け右茶畑の耕作並びに製茶業を営み来つたことが認められ他に原告が応召のためこれを一時の小作に委ねたという事実を認むべき何等の証拠はないから本件土地を自作農創設特別措置法にいう一時の小作地と認めることはできない。又(三)成立に争なき乙第六号証の一、当裁判所が真正に成立したものと認める同五号証に証人小本ミチヱ、前記秋山、井手両証人の各供述を綜合すると、原告は昭和十五年頃応召し、前記訴外人も亦昭和十九年頃応召し同人は翌二十年三月十七日戦死するに至つたが、同人応召の後はその母並びに妻ミサヲ等において前記茶畑の耕作及び製茶業を維持し来つたところ、原告がその後復員帰宅するや或は人を介し或は書面を以て右訴外人の遺家族に対し時には脅迫的言辞をも交えて本件茶畑等の返還を迫つたので右訴外人の遺家族等は主人を失つて悲歎に暮れている時でもあり不本意ながら昭和二十一年六月頃止むなくこれを原告に返還したことが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠なくこれ等の事実から推すときは本件土地の引上は適法且正当になされたものとは認め難い。次に原告は第一次農地買収計画の取消は改正法上においてもその効力を維持すべきところこれを無視し更に同一土地に就き第二次農地買収計画を定めることは違法であると主張する。なるほど一旦定めた買収計画を取消しておきながら更に同一土地に就き同一の事由によつて買収計画を定めることは失当というべきが如くであるけれども、成立に争なき甲第一号証、乙第四号証の二、三に前記秋山、井手両証人の供述を綜合すると、原告が第一次農地買収計画に対する異議の申立をなした当時村農地委員会としては原告と井手方とが遠縁に当る関係でもあるので出来るだけ両者間の円満な解決を計るべく地元農地委員をして極力斡旋に努めさせた結果両者間に被告等主張の通り第一次農地買収計画の対象となつた農地の内本件茶畑は原告の保有とし、他の二筆の茶畑は井手方において所定の手続によりこれを買受けて耕作することとなり、その引渡時期を昭和二十三年六月と定めると共に原告の保有する他の茶畑にできる茶の葉は全部これを井手方に売渡す旨の協定が成立したので、村農地委員会としても右協定の趣旨を尊重し昭和二十二年九月九日第一次農地買収計画中本件土地の部分の取消を為した事実が認められ、更に乙第六号証の一、同号証の二、三に前顕秋山、井手両証人の供述を綜合すると、右協定成立後原告は敢えて井手方に対する茶の葉の売渡をしないのみならず昭和二十三年五月頃井手方に引渡すべき茶畑の茶樹を台刈し且櫨、柿等を伐取するの暴挙を敢えてした為再び紛争を起すに至つた事情を認めることができる。而して右認定の如く村農地委員会が第一次農地買収計画中本件茶畑の部分を取消したのは原告と井手方の間に成立した協定を尊重するが為であり、右取消は当事者間における誠実なる協定の履行による紛争の解決を前提として為されたものであるから、肝腎の協定一方の当事者たる原告において敢て協定違反の挙に出で、これによつて協定は実効なきに帰した以上は、その取消は只にその合理的な根拠を失うに至つたのみならずもはや右取消の効力を将来に向つて維持せしむべき何等の理由も存しないものというべく従つてこのような事情から、更に同一の土地に就き被告村農地委員会が第二次買収計画を定めることには別段違法の廉はないと解するのが相当である。然らば前記第二次農地買収計画には原告主張の如き違法はなく従つて又これを認容して原告の訴願を棄却した本件裁決にも結局違法の廉はないものというべきであるから右計画及び裁決の取消を求める本訴請求はいづれも失当として棄却を免れないものである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 丹生義孝 入江啓七郎 真庭春夫)

(目録省略)

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